選べるか?素晴らしい授業

講演会やお笑いライブとは違い、授業や研修は、比較的コンテンツが決まっており、講師を見て選ぶよりコンテンツを見て選ぶことが多い。そにれも関わらず、講師によって授業の質は大幅に変わる。私が受けた授業で最たるものは、Creative Labだ。少しこちらに記載したが、去年の評判はよかったのに、講師が去年と異なったせい(と推測される)で今年の同級生の評判は悪かった。元々、講師の評判は気にしなかったのだが、この失敗を受けて後半は講師で選んだ部分もある(逆に講師で選ぶ最たるものは、ブルーオーシャン・ストラテジーを著したINSEADの教授群や、イノベーションのジレンマを著したハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセンを選ぶ場合であろう。著名な教授という観点でMBAの学校を選ぶ場合も聞く)。今回は、私自身も教育に興味があり、講師の経験もあるため、良い評判の授業、悪い評判の授業の違いを私が受けたMBAの授業から簡単に紹介してみたい。

今回取り上げるのは自身の主観的な観点と同級生の話から際立って評判が悪かった二つと、評判が良かった二つだ。それぞれ、年齢的に(分類するのは意味ないかもしれないが)中堅とシニアの方がいたので、その2X2でカテゴリー分けする。今回4人とも男性の講師になってしまったが意図はない。4つの講師に共通しているのは、一般的に必要と言われている、Powerpointでの授業、RealなビジネスCaseを使った生徒とのDiscussion、生徒への多くの質問、生徒の意見を尊重する事、厳格過ぎず、柔らか過ぎない、という良い部分だ。それでも、彼らに差が出てしまうのはどういうことだろうか?

比較をする際には良い事例を先に紹介した方が、悪い事例の要因が分かりやすいと思うので、そうする。まずは私が良いと考えているRobert (Bob) WardropのNew Venture Finance(選択授業)とFintech Strategy(選択授業)だ。私はIBMに勤めており、(Startupと直接関わりがないとは言え)Fintechについてはある程度知識があったので、Fintechの授業を受ける必要性は低かったのだが、彼が講師ということで決めた。彼はシニアに属する。彼の授業で好感が持てる最たるものは、その自信を持ったしゃべり方だった。一見すると高圧的にも見えるのだが、生徒の質問やコメントに対してしっかりと反応し、Discussionのハンドリングもうまい。例えば、議論が白熱して生徒の挙手が後を絶たない時も、きっぱりと「君が最後ね」と言いながら授業を進める(最も「最後」と言いながら「もう一人だけ」という時もあるのだが。。。)。授業の資料や教える内容も深みがあるので理解が進む。深みとは、例えば、彼がDirectorを務めている Cambridge Centre of Alternative Finance (CCAF)にて研究されたデータを元に、昨今のVentureへの投資変化やFintechとTechfin(Technology会社が金融事業をやるパターン)の比較等について教授いただいた。

Robert (Bob) Wardrop のFintech Strategyより

次に良い授業として紹介するのは私の代でStrategy(必須授業)を担当したLionel Paolellaだ(授業には毎年、もしくは定期的に担当講師が変わる授業とそうでない授業があるが、前出のFintechはBobがCCAFのDirectorということもあり、基本的に彼が担当している。一方でこの後の授業は全て講師が変わる)。彼は中堅に属する。彼の授業は、さすがに、前出のBobに比べて研究から出たデータはすくないのだが、最たる部分は、ベタだが、生徒200人以上の顔と名前をほぼ全て(最初の頃たまに間違えていたので、それでも)覚えていたことだ。また、いじってもよさそうな生徒(私とか)を授業中にいじる事も忘れない。ようは、Bobに比較して生徒に近づいて授業を進めていたと言える。ただ、そういう「好かれる」だけの方策ではなく、毎授業の開始と終了には「Strategy授業全12回の中で今回はどこにいるか」や「たくさん習ったフレームワーク(3Cや、PESTや、5 Force)の関係」を明確にRemindしてくれるので理解しやすかった。これらは「基本的な事ではあるのだが、実際には疎かにされる」事であり、それをしっかり実施したことが経験の少なさを補ったのだと思う。

評判の悪かった授業の1つ目はMarketing(必須授業)の前半6回だ。担当の講師はシニアに属する。私の彼の授業に対する感想は「無味乾燥」だ。正直なぜそう感じたのか、今でも分からない。覚えているのは、Marketingの古いフレームワーク内で使われている計算方法を、我々が理解できなくて2回もかけて説明したことだ。実際はそのフレームワークは1回の半分でやるはずだったのだが、我々の質問に真摯に答えたことでそのようになってしまっていた。ありがたい事ではあるが、計算方法の長い説明は退屈であった。また、授業のグループワークの宿題を期限までに提出しなかった組が多かった回に、悲しみを込めて数十分叱った事もあった。もちろん、宿題を提出しないことはもっての外なのではあるが、多数の同級生がその宿題の存在を認識していなかった。なぜそうなってしまったのだろうか?基本的にMBA期間中は、特に1年制は、非常に忙しい。講師達もそれが分かっているのか、提出物に対しては何度も何度もRemindする。シラバスに記載し、メールを数回送り、当然授業中も宿題に触れ、授業の資料に毎回載せる(もちろんこのやり方が過保護という指摘もある)。しかし、彼はそこまでのRemindをしなかった。

最後に紹介するのはBusiness&Society(必須授業)だ。担当の講師は中堅で、見た目も爽やかで好感が持てたのだが、授業の評判は悪かった。この授業は昨今日本でもよく耳にするBusinessのサステナビリティ(Sustainability)について考える授業だ。テーマとしては面白いが、範囲が広く掴みどころがない。教える方も難しいだろうとは容易に想像がつく。彼が信頼を失った理由は、彼の質問やDiscussionテーマの同級生の回答やコメントに対する反応の悪さだ。同級生の発言に対して、単に「OK」や他の一言で返す場合が多かった。おそらく、単に彼自身が思い描いている回答以外に対しては、良い返しが思いつかなかっただけなのだろうが、それが底の浅さを露呈してしまっている。この授業は明らかに毎回生徒数が減っていき、最後の授業は数えるほどだった。

生徒とのInteractionが最重要?(ちなみにこの写真は今回紹介の授業とは別のVCWでの一コマ)

このように記載してみると、今回の分析の結果(つまり私の主観)で最も重要な点は生徒とのInteractionがどれだけうまいかだと思う。これは私がMBAの授業を受ける理由に依っているかもしれない。その理由は同級生とのCommunicationのネタとしての授業だ。もちろん、ブルーオーシャンをしっかり学ぶ、卒業後に使えるSkillを身に着ける、というのも重要な理由だと思うし人によってはそれがMBAに来る理由だ。ただ、私の場合は同級生とのCommunicationを最重要視していたので、それを促進する講師に対して評価が高くなるのだろう。BobとLionelはInteractionがうまかった。3人目の方はそれについて記載していないが、4人目の方は下手だった。Bobは経験に裏打ちされた自信、Lionelは経験が少ない分を補完する努力。4人目の方はその努力が足りなかったのかもしれない。この分析に依ると3人目の方は浮いているが、宿題のRemindの努力が足りなかったと言える”かも”しれない。また、3人目の方を例にとると、「テンポのよさ」というのも重要になってくる。生徒を飽きさせてはいけない。丁寧な説明とテンポのよさをどう両立させるかは難しいとは思うが、丁寧な補足資料という方法があると思う。前半の二人は授業中の説明資料以外に補足資料を作っていた。マイクロ経済とマクロ経済を教えてくれたのは経済学部の教授なのだが、両教授とも補足資料を作ってくれて、面白い授業だと思えた。

結局、先生というのはCommunicationのうまさが重要なのかもしれない。

生徒の立場からすると受けてみるまでどの授業や講師がよいのかは判断が難しい。事前情報も収集が難しいし、主観に依っている。実際今後記載する予定のMBA用予備校の選定も非常に難しかった(これについては今後、MBA準備について書く時に記載していきたいと思う)。それでも、良い授業に出会える確率を最大化するために事前情報収集をして、何を期待し、その講師がそれを提供できそうかどうかを評価しておくべきであろう。