「男のロマン」の果て(?)イスラエル紀行(下):スタートアップ

ビジネス・スクールなんだから真っ先にこの内容を書くべき。なのだが、興味の範囲が歴史や国際関係偏重なので仕方ない(理系なので科学技術は言うに及ばず)。自己紹介にも記載したが、本棚はほぼ歴史の本で仕事関連の本なんかほとんどない。それにしてもなぜ歴史が好きなのだろうか。聞かれてもあまりちゃんと答えられない。帰国前に一度ちゃんと考えて、ブログに書いてみよう。MBAコースで記載したい内容が溜まりに溜まっているが。。。

本棚再掲

ビジネス的にイスラエルと言えばスタートアップだろう。個人的にはサイバーセキュリティー関連が多い気がしている。それは兵役があって、そこで学んだ技術を元に起業することができるからだと思う。ちょうど訪問時も、テルアビブ大学でサイバーセキュリティー関連のConferenceが開催されていた。前々回に記載したIBMが買収したTrusteerもサイバーセキュリティーの会社だ。正直サイバーセキュリティーは専門家でないと中々難しい内容である(ちなみに私は素人と専門の間くらいではあると思う)。例えば、いくらITセキュリティーに投資をしても、アメリカ、ロシア、北朝鮮、イスラエル辺りのサイバー部隊に本気で狙われたらどうしようもない。こうしている間も国家レベルで様々なサイバー兵器が開発投入されているのであろう。リアルタイムで攻撃のトラフィックを見ることができるサイトがあるので、一度見てみると面白い(MBAの授業で教えてもらった)。実際私の好きな出川さんがCMをしていたコインチェックの仮想通貨流出事件は北朝鮮ハッカーの攻撃であったようで、北朝鮮的には外貨入手のための方法の一つとして重要な資金源なのだろう。一方で、コインチェックのような中小企業がどの程度セキュリティーに投資すべきかは難しい問題ではないか。セキュリティー対策は際限がないし、ガチガチに固めたところで何の攻撃もないかもしれない。ガイドラインがあるのか、と思って探したら、あった。経済産業省が公開しているよう。とは言え、対策の程度は中々難しそうだと常々思っている。

リアルタイムのサイバーアタック状況 (2018年のある時期の例)

イスラエルに話を戻すと、スタートアップが盛んな理由は、兵役以外にも4つの重要な要素があるようだ。今回訪問したOur CrowdStartup Nation Centralでこの要素については同様なことを紹介してもらった(この二つの会社の取り組みについては後ほど)。まずはCulture(文化)。イスラエル人は合理的で果敢な文化精神があると言われている。これは前回記載した近代史からも建国間もない国としての生き残りをかけていた(いる)状況が影響しているのかもしれない。また、ネットワーキングの強さを指摘されることも多いが、これはユダヤ人コミュニティーの結束力の強さがそうさせるのであろう。2つ目はIDF(Israeli Defense Force:イスラエル国防軍)であるが、これは上記の通り(ちなみに同行した同級生のシンガポール人に「JSDFってさぁ〜・・・」って話をされてJSDFって何?って聞いたらJapan Self-Defense Force(自衛隊)のことだった、、そう訳すのか。。)。3つ目はImigration(移民)。イスラエルは移民をしっかり受け入れており、それにより多様性が育まれて、Ideaが生まれるそう。が、前回記載の通り疑問が残る部分ではあるし、これによる国内問題もあるのであろう。4つ目はGovernment Support(政府の支援)。Israel Innovation Authorityという政府のInnovation支援官庁があり、政府主導のアクセレレーター・プログラム等も盛んなよう。5つ目はLuck(運)。運は大事であろう。マキャベリもリーダーの資質に重要なのは「ヴィルトゥ(徳)」、「時代を読む力」、そして「運」だと言っていた。イスラエルの場合は、たまたま建国間もなく、たまたま紛争が多くて、たまたま技術力が上がった、のであろうが、それらを引き寄せた国内の力も見逃せない。(運の重要性は認識しているつもりなので、運についても自分の考えを整理して記載した方が良いかもしれない。。)

スタートアップ ネーションに繋がる5つの要素
イスラエルの国民一人辺りのスタートアップの数は世界一

さて、今回訪問した会社の一つであるOur Crowdは西エルサレムに本拠があり、Venture CapitalとCrowd Investing(クラウド・ファウンディンの一形態)を合わせた事業形態で展開している。よって、クラウド・ファウンディングを利用して、Our Crowdのサイトから個人でも投資ができる。ちなみに日本では投資型のクラウド・ファウンディングは事業者側には高いハードル(規制)があるが、出資者には規制がないよう。そして、Venture Capitalの役割も担うため、Our Crowd自身がdue diligenceを実施した品質の高いスタートアップが多いそうだ。

もう一つのStartup Nation CentralはNGOで、テルアビブに本拠があり、イスラエルのInnovationを促進するために各Stakeholderを繋げる活動を主に実施しているよう。サイトでは、興味に沿ってイスラエル内のStart-upを検索できるし、イスラエル内のスタートアップに関する調査結果を閲覧できる(要登録)。当然、前出のサイバー・セキュリティーだけでなく、農業(Ag-Tech)やインフラ(Water&Energy)も盛んであるよう。

イスラエルStartupの業界

一方で、最近はスタートアップ企業数などは減少してきている(させてきている側面も)。それは、スタートアップ企業は雇用に結びつきにくいので、政府がより規模の大きな企業の数の増加に政策転換をしてきているからだという記事も見られた。現地でお会いした日本人の方も「最近はスタートアップよりも巨大テック系企業の存在感が大きくなっています。エンジニア系人材の草刈り場になり、イスラエルのスタートアップの起業数は減ってきてるそうです。~~ 特にインテルのイスラエルの活かし方は抜群にうまくて、スタートアップの買収により新しい事業領域にはいると同時にイスラエルに経営資源も投下し、R&Dや事業開発の拠点化をしているように見えます。」という内容を記載されている。スタートアップが持て囃されている現在、つい華やかな世界に見えるが、大企業も(当然だが)重要な意味を持つのだなと思った。経済における大企業、中小企業、スタートアップ、それぞれの役割や意味についてまだまだ理解していないと認識した次第である。翻って日本(人)の事を見てみると、少し驚いたことに訪問時のPresentationの中で、日本のInnovation順位が意外にも低くないことが分かった。例えば、World Economic Forumによる調査によると、R&D Expenditureの対GDP比はイスラエルが1位で日本が3位。もう少し調べると、Research & Development全体では日本が1位でイスラエルは17位。さらに上位カテゴリーのInnovation Capabilityでは日本は6位でイスラエルは16位だった、1位はドイツ。ただ、やはり日本のStartupの数は少ないようだ。しかし、Innovation Capabilityがあって、それで本当にInnovationが起きているのであれば良いと思う。日本はもうInnovationが無いというのは穿った見方なのだろうか。

都市別のスタートアップ数ランキング、テルアビブが世界6位、日本の都市の名前はない

どのようにイスラエルと協業していくかと考えると、この大企業スキルを駆使するのが良さそうだ。同じ記事だが、「イスラエル人は、スタートアップ、ベンチャー、イノベーションに関心があり、得意であるが、辛抱や長期的企画、大規模な経営などは必ずしも得意ではない。それに対して、日本はスタートアップやベンチャーはあまり得意でないが、組織の大規模化や大量生産化は得意であると言えよう」との記載があった。イスラエル自体も漫画、食、だけでなくて、ビジネス的にも日本には興味があるようで、近々日本への直行便ができるそう。ただ、現在イスラエルが持つ日本への興味はスタートアップの買収元やFund資金であるように思う。実際楽天がViberを2014年に買収し、この楽天Viberが2015年にNextPeerを買収している。可能であれば、お金の面だけではなくて、国民性や技術力に興味をいただいていただき、その部分でWin-Winの関係になれれば一番良いと思う。

イスラエル紀行、長くなったが、歴史、現状、そしてビジネスと記載することで、これら3つは無関係ではなく、繋がって現在の経済とビジネス状況になっているのだなと理解することができたように思うのでよかった。旅行が終わった後に、ここまで調べたのは初めてだ。ただ、毎回このレベルでブログを書くことはできないが。。。