イノベーションをおこすには?のバイブルの1つ

さて、「イノベーションのジレンマ」という本がある、スタンフォード大学の故クレイトン・クリステンセンの有名な著書である。多くの日本人が読んでいることであろうと思う。それに対する1つの答えとして「両利きの経営」という本がある。詳細は後述するが、事業の「深化」と「探索」を同時にするという事である。今の日立のコーポレートベンチャリングはこの「両利きの経営」を実践、少なくともChallengeしていると言って良いと思っている。

大企業がイノベーションをおこす、もしくはおこし続ける事ができるか?私の仕事はこれだと思っている。ちなみに「おこす」というのが正しい表現かはまた別の問題としてあるが、今回はここには触れない。

まずは、両利きの経営の基本を4つ紹介したい。

両利きの経営の基本、図はこちらから拝借している

最初はサクセストラップ、要は成功に驕るという事だ。例えば、顧客のために品質高くコスト効率の高いソリューションを提供しようと努力する、これは「深化」だが、これは企業として当然で、その結果売り上げと利益向上という成功がついてくる。そして、プロセス化、規範、文化という形で醸成されてさらに高効率となっていく。しかし、その結果その文脈に載らない事業や一見関係ない外部的な脅威に目を向けられなくなり、結果としてイノベーションが起こらず、衰退、もしくは破壊されるというものだ。

次にダイナミック・ケイパビリティ。組織のリソースを環境の変化に応じて適切に配分するということだ。これだけ書くと経営戦略の基本と何ら変わりがないが、個々のリソースの組み合わせも変えて、新たな市場に向けて適切にダイナミック(動的)に配分する能力、ということが強調されている。

3つ目はイノベーションストリーム。これは本書に記載の内容をそのまま記載したい。縦軸に「既存事業か新規事業か」、横軸に「これまでの組織能力か、新しい組織能力が必要か」の4領域で次の事業を考えるということだ。この各4領域で起こる新たな事業のマネージメントに失敗したことが企業の衰退につながっているということだ。また、特に技術は持っているのに新市場にいけなかった事例が多いという。

こちらを参照

最後は多様化(Variation)選択(Selection)維持(Retention)、VSRプロセスと呼ばれるものだ。この時、それぞれのフェーズで求められる能力やKPIが異なることが大事だ。多様化(そのために必要な探索)をしようとしている時に、維持フェーズ(主に深化)でのKPI、例えば売り上げ、利益、効率性など、を設定してはいけないということだ。特に大企業の場合はそれぞれのプロセスが併存するので、上級マネージャーはその違いをしっかり認識してそれぞれのフェーズを担当させた部署をマネージメントしなければならない。また、総じて維持を担当する部署の方が力が強いので、多様化を担当する部署を適切に守らなければならない。

「この維持を担当する(深化を担当する)部署の方が強い」というのがジレンマの本質だと思っている。当然であろう、これまでの失敗を経験に変えて今のCashを生み出している部署なのだから、成功するかも分からない新規事業部署より強い。しかし、これがDisruptiveされる理由である。よって経営層はここの調整力が求められる。

さて、これらを実現する上で、今私個人として一番大事だと思っているのが、探索チームと深化チームをどうコラボレーションさせるかということだ。本書で主張されている原則5つのうちの2番目に「どこに探索と進化の緊張関係を持たせるかを明確に選定する」というものがある。その方法の1つは、CEOや事業ユニットリーダーがその役割を担い、探索チームと深化チームを明確に分けて、適切に探索チームを守るというものだ。もう1つは上級マネージャーが一緒になって探索も担うというものだ。なんとなく後者の方が良さそうに聞こえる。また、実際に社内のリソースを探索にも上手く使えたのは後者の方のようだ。ただ、想像の通り、後者は時間もかかり、上級マネージャーの報酬体系の変更や、自身のリーダーシップ方針を変えたり、深化と探索の両立の方法を一緒に学んでいくというものだ。これは、これらの実行よりも、こういうことをこれから一緒にやっていこう、と上級マネージャー間でConsensusを取ることが、まず難しそうだ。

しかし、探索をする上でも社内の既存リソースを適切に使わなければ探索リソースが足りないし、そもそも自社の強みを活かせない。もし、これが実現されて探索と深化の間で柔軟にリソースが配分、もしくは組み替えがなされれば外部の新たな脅威に対しても柔軟に対応できると思う。

ここまでは本書に記載の内容がほとんどだ。それではなぜ、既存企業ではそれができなくて、どうすれば良いのだろう。私は2つの企業しか経験していないが、その上で話してみたい。

まずは探索チームだけが探索のミッションを持つことは無理があるということだ。探索チームは概して、社内のリソースを使える立場にない。よって、社内のリソースを持っている事業部のリーダーが探索チームの必要性を理解して、そちらにもリソースを配分することを良しとしなければならない。

もう1つは上級マネージャーの報酬体系を変える必要がある。短期的な売り上げ利益だけがKPIであると、探索側にリソースを配分するモチベーションが湧かない。

ちなみに、事業部側がリスクを取りたがらないのは色んな意味で当然だと思う。例えば顧客とプロジェクトを実施して新しいことを試したとして失敗した場合に、その尻拭いをするのは顧客フロントに立っているチームだ。失敗する可能性があるならやらないのが基本的な考えだと思う。なので、事業部側が探索をする場合は、探索プロジェクトと明確にして、他社を巻き込むなら他社へもそういう説明をしっかりしておく必要がある。

いずれにせよ、イノベーションのジレンマを克服するために、両利きの経営を実践することは容易ではない。しかし、イノベーションはスタートアップだけでおこせるものではない。大企業がイノベーションをおこすために上記の課題を解決しなければならない。チャレンジしがいのあるテーマだと思う。

コメントを残す